路傍の晶
キュア スペース 尾崎さん
悠久の歴史を刻む天然石は古くからよい気の流れを促し、持つ人の精神を落ち着かせると言い伝えられている。アジアでも有数の天然石集散地とされる台湾に生まれ育った尾崎さんにとって、このいわゆるパワーストーンは、「昔から好きで身に付けていた」と語るほどに身近な存在だった。
「石や水晶は見た目にも綺麗だし、持つと気持ちが落ち着きます。親友が長年パワーストーンのお店をやっていたので色々教わり、昨年、私もお店を開いたんです」
扱っている天然石は幅広く、気に入ったものを自ら選び、自分の体のサイズに合わせてオリジナルのアクセサリーを作ることができる。本場から仕入れる石たちは、国内では希少なものも少なくない。
人と接するのが好き、と語る。なるほど、それ以前は長年ホテルに勤め、サービス業に従事していた。そんな人なつこい性格ゆえだろう、「キュア・スペース」を昨年4月に開店してからというもの、客足はじわじわと増えていく。興味深いのは、それが単なる店と客というドライな関係に留まっていないことだ。たとえばフルーツや食べ物など何か頂き物があると、それを一人で暮らしている若者らに分ける。するとその礼を伝えるためだけに、彼らは店に立ち寄る。ときには友人を連れて店を訪れることもあった。あるいは、とある美学生の絵に感銘を受けて店頭に飾り、お返しに石をプレゼントしたこともある。店先で馴染みの利用者に飲み物を振舞い、話に花を咲かせることもしばしばだ。これらはほんの一例にすぎないが、そうした商売を越えた下町ならではの付き合いが、尾崎さんを中心に息づいている。
「感謝の気持ちと慈悲の心が大事」彼女は自身の思いをそう語る。
「ひとを大事にすれば、相手も気持ちを傾けてくれる。なにか問題を抱えていたとして、たとえ解決できなかったとしても話を聞いてあげることはできる。自分のささやかな行為で相手が幸せな気持ちになってくれたらなによりだと思います。健康であるかぎりお店をやり続けていきたいですね」
天然石が自然のパワーを与えてくれるのなら、尾崎さんもまた生まれながらの人柄で利用者に力を与えている。皆が集まってくる理由は他でもない。“キュア・スペース”――文字通り、訪れる者を癒してくれる空間だった。
取材・文◎隈元大吾